SSブログ

友人のこと [Essay]

昨年末、高校の部活の友人とSNSで再会した。

古豪などと呼ばれてはいても、目だった成績の無かった私たちの弓道部は、
私たちが最上級生になった春には、男女とも県内のトップクラスに躍り出た。

彼女は、団体戦のメンバーとしてインターハイに出場している。
もし他の学校にいたとすれば、エースになっていた事も間違いないだろう。
だが、圧倒的な大エースが二人も居たので、常に三番手か四番手。
しかし、私も、女子リーダーも監督も、彼女をメンバー登録から外す事は考えたことが無かった。

彼女と私や女子のエースたちの実力の差は、それほど無かったと思っている。
(弓道の場合、純粋に技術として男女の差はあまりないと思う)
差があるとすれば、自分の事をどう認識しているか、
簡単に言えば自信という言葉になるだろうか、
ほんの少しの、信じられる「コツ」のようなものを掴めたかどうか、かもしれない。

私が彼女を知っているのはあくまで部活の中だけだが、
クールでそのくせ不器用で要領が悪かった。
多分、周りの雰囲気に乗って何かをするのが得意ではないのだと思う。

だから周りと比べて、
手を抜いているように見えたり、
やる気がないように見えたり、
雑に見えてたりしてしまう。

それで、なかなか評価してもらえず、悔しい思いをしたのではないかと思う。

私にもそういうところがあり、
監督に怒られたというか「殴られた」回数に関して、
僕と彼女は双璧だったのではないだろうか。

でも、今なら分かるけれど、監督は歯がゆい思いをしてたんだよきっと。


彼女は今、妻であり母であり中小企業の経営者だ。
家庭と子供と従業員に責任を負い、並の神経では耐えられるとは思えない。
男では絶対無理だし、
亭主が牛丼を食べているのにママ友とランチなどと言っている馬鹿主婦なら一日と持たないだろう。
(不適切な表現をお詫びします)

昔の、つい数十年前の母親はそうだった。
私の母もそうだった。
私は彼女を「日本のお母さん」だと思って尊敬している。


震災は、
親戚の被災、友人の死、業績の悪化、お客さんの窮状、
様々な現実を彼女に突きつけた。

私なら耐え切る自信はない。
おそらく、何もかも投げ出したいような、怒りと不安と絶望と無力感と、
彼女の血を吐くような言葉に、私にはかける言葉が無かった。

経験の伴わない、頭で考えただけの言葉なんて無力だ。

私はかろうじて、「生きている以上は生きていくしかない」というような事を書いたと思う。
自分の語彙と経験の無さをこれほど呪った事はない。
震災の無力感にさいなまれていた私は、さらに、苦しむ友人にかける言葉すらない自分の無力を思い知った。

だけどそれは、私の経験から言えたただ一つの言葉だった。

少しずつ、彼女の言葉は落ち着きを取り戻して、いつもの毒舌が見られるようになった。
私も自分の均衡を取り戻すことができた。


暫くして、ある事をきっかけに、彼女からメッセージをもらう機会があった。
私は驚いた。
なんとも心に染みる言葉たちが、そこに並べられていた。

私は、彼女を通じて、リアリティという言葉を再認識した。

そうだ、リアリティのある言葉しか、人には届かない。

モラルや規範はあまり意味がない。
イデオロギーや正義もあまり意味がない。
人には届くのは、リアリティのある言葉だけだ。

当時、他愛のない掛け合い漫才のような会話しかしていなかった彼女なのに、
不思議な縁があるものだと思う。

それにしても、20年という歳月で、僕と彼女になんと差がついた事のだろう。
それともあの頃、僕が気が付かなかっただけだろうか。

nice!(9)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 9

コメント 2

ため息の午後

 同じ時の長さでも経験によって人は、様々に変化するのですね。
私もリアリティのある言葉は吐けませんが、それでも自分にしかない
長所はあるんだと思っています。 evergreenさんにはevergreenさん
しかない長所が、彼女には彼女にしかにしかない素晴らしさが、
お互いに長い時間の中で育っているのだと思いますよ。
 私も薄っぺらな言葉しか吐けません(汗)。

by ため息の午後 (2011-07-21 18:40) 

evergreen

そうですね、私もそれなりに生きてきましたし、
多分私なりの言葉やリアリティがあるのだと思います。

最近、ネットの世界ではどうもリアリティのない言葉ばかりが氾濫している気がしています。

それにしても、若い頃ともに苦労をした仲間と再会するというのはいい物です。
by evergreen (2011-07-22 01:51) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0